公開日:2020/10/13
「手がけている作品のマスタリングに是非使いたい」という強いオファーがあり、「REF10 SE120」がプロの現場に投入されました!
キングインターナショナルさんの関連スタジオ「
キング関口台スタジオ」にお邪魔し、音響評論家の
角田郁雄先生とマスタリング・エンジニアの辻 裕行さんにお話をうかがいました。
左)マスタリング・エンジニアの辻 裕行さん 右)音響評論家の角田郁雄先生
■今回のマスタリングの楽曲についてのご紹介、また作品(企画)に取り組むこととなった経緯を教えていただけますか。
【角田先生】
ドイツ出身の実力派バイオリニスト、
イザベル・ファウストの15枚目のアルバム『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータBWV 1001-1006(全曲)』(2020年11月下旬ごろ発売予定)です。キングインターナショナルさんの30周年記念SACDとして、リマスタリングして発売します。
イザベル・ファウストさんの楽曲との出会いから今日に至るまで語ると、ロングストーリーになります(笑)
震災の前に、このCDを買ったんです。「これすごい演奏だなー」と思った。録音も良かったし。
その後、震災があって、その直後にイザベル・ファウストさん本人が来日し、銀座王子ホールで午前、午後にわたる一日でこのバッハの全6曲演奏会が行われ、聴きに行きました。そしたら、一聴でこの演奏家に惚れて抜け出せなくなったわけです。
そこで、私はこのバッハをSACDにしたいと思いました。
本国では、SACDに取り組まれることが少ないんです。
イザベル・ファウストさんはフランスの
HARMONIA MUNDI レーベルで、継続的にアルバムの制作に打ち込んでいました。そこで、キングインターナショナルさんに話を持ち掛けて、まず第一弾を実現させました。それをきっかけに後に14タイトルが出て今回が15作品目となります。
キングインターナショナルさんの30周年記念として、実際は色々とやりたいことがあったんだけど、このご時世ですから、原点回帰という意味を込めて、リマスタリングという形でまたこの作品に戻ってきたんです。
なので、僕はこのイザベル・ファウストさんの作品は最初から携わっています。オーディオ愛好家に『イザベル・ファウスト』を認知してもらうことができたという点では、少しは貢献できたかな(笑)。ただ、数多くのクラシックリスナーから見ても、その演奏の素晴らしさは世界的にもリスペクトされていますし、世界の中でも指折りのバイオリニストだと思いますよ。
そして、SACDやアナログ盤を日本国内で展開できたのは、積極的に取り組まれているキングインターナショナルさんのおかげと言えます。世界的に見ても、DSDを扱う点では日本が一番活発だと思います。キング関口台スタジオは屈指のスタジオですよね。エンジニアの辻さんもとても素晴らしい方です。
【エンジニア辻さん】
わりと、国内では取り組むのが早い方だったんですよね。Pyramixでマルチで録れるスペックでしっかり揃えたのは、おそらく日本では最初だったのではないかと思います。
■MUTEC10MHzクロックジェネレーターREF10 SE120を選んだ理由はありますか?
【エンジニア辻さん】
「良いものを、より良く」というコンセプトがあったと思います。
もともとの素材自体が非常に良いものなので、前回作のSACDも悪い箇所が見つかりませんでした。
さらに「良くしたい」という試みで、角田さんがMUTEC
REF10 SE120を選択された気がするんですよね。
【角田先生】
その通りです。
位相ノイズレベルを下げるとジッター成分も減るし、リアリティーがより一層出てきます。
あと、ダイナミックレンジの広い曲だと、さらに効力を発揮しますね。ダイナミックレンジ、そして解像度に貢献すると期待していました。
特にバイオリンは、倍音成分が最も豊富な楽器なんですよ。昔はオーボエが倍音が多いと言われていたんだけど、最新のスペクトラムアナライザーで見ると、バイオリンは非常に倍音成分が多いということがわかっています。よりアナログ的な音にしようと思うと、楽器の倍音が引き立たないと成り立ちません。特にバイオリンという楽器自体がそういう存在です。
それから、昔から言われている「デジタル臭さ」をなくす、つまり、よりアナログに近い理想的な特性に持っていくためには、マスタークロックの役割が欠かせないので、今回
REF10 SE120を使ってみました。
■実際にご使用された感想をお聞かせいただけますでしょうか。
【角田先生】
たかが4dBだけど、その差が効果としては大きい。
REF10 SE120を投入すると、艶やかさ、解像度、S/N、ダイナミックレンジの広さがさらに引き立つようになって、大きく凌駕した音色になったと思います。全体的に言えば「空間表現」のスケールが大きくなった。細かい演奏の様子までよく見えるようになってきた、という印象です。
【エンジニア辻さん】
(今までと)違いますね。REF10 SE120で録ったものは「広がり感」がありますね。空間がすごく大きく感じます。
正直これは、どうすりゃいいんだ、と悩んでしまいます(笑)
ここ10年くらいで、クロックの重要性が浸透してきているように感じます。最近では、このスタジオに訪れるかたがたも機器構成を良く見て帰ります。昔はクロックジェネレーターもそんなに選択肢がなかったんですが、やっぱり(機材の)傾向も変わってきていますよね。
■これからクロックを始める人たちにコメントがあればいただけますか。
【角田先生】
アナログ時代のテープなどをデジタル化して記録媒体に保存することがよく行われています。アーカイブとして。
アナログを原点とした時に理想に掲げられるのが、「時間軸芸術の再現」と言われます。この言葉を僕は意外と信じています。
やはり正確な時間軸とリアルな情報、これらは非常に大切なことで、それを実現するための一つの要素がマスタークロックかなと思います。
角田郁雄 Ikuo Tsunoda オーディオ評論家。
父の影響を受け、オーディオに興味を持つ。スタジオ機器のセールスエンジニア的な仕事を経た後、 オーディオの魅力を若い世代にも伝えたいと評論の世界へ。ブランドの音やその背景にある技術、そしてその結果誕生するデザインの魅力を深く掘り下げる スタイルで厚い支持を獲得している。
辻 裕行 Hiroyuki Tsuji マスタリング・エンジニア。
株式会社キング関口台スタジオ所属。「
IT’S A JACO TIME!/櫻井哲夫JACOトリビュート・バンド」、「
TRICK/TRIX」、「
Because the Night…/Ryu Miho」など、数々のアルバムのマスタリング・エンジニアを務める。
株式会社キング関口台スタジオ
〒112-0014
東京都文京区関口2-4-16
http://cnt.kingrecords.co.jp/studio/